「有機無農薬栽培を行うためには、まず、土づくりから」
このことは、有機栽培の経験者なら誰もが実感していることである。しかし、土づくりは容易なことではない。「土がでぎるまでに6、7年かかった。土ができてやっとよいものがでぎはじめた。」という声をよく耳にする。このように重要な土づくりとは一体何なのだろうか。
必要成分の供給
土づくりのために私たちは一般的に堆肥等の有機物を使用する。堆肥は植物や家畜ふん尿に微生物が作用したものであるため、窒素、リン酸、力リ、石灰、苦土等作物の生育に必要な全ての成分を含むと考えられるが、堆肥の種類によって成分含量に違いがある。また、微量要素と呼ばれるマンガン、ホウ素、鉄、亜鉛、銅なども含まれているため、堆肥を十分に施用すれば、これら微量要素が欠乏することはないといえる。
しかし、有機栽培では化学肥料に比べて使用する堆肥や有機質肥料の成分が一定でないため、成分がかたよって土壌へ残存してくることがある。そこで、定期的に土壌診断を実施し、有機栽培で使用できる資材に注意しながら改善に必要な量を投入し、土壌中の各成分含有量やバランスを維持しなければならない。
土壌化学性の改善
堆肥の施用により、腐植の供給もできる。
施用した堆肥等の有機物は、
図1のような分解過程を経て腐植に変化する。腐植とは有機物が土壌中で微生物によって分解された暗色で形が定まらない高分子化合物である。

また、粘土と同様電気的に(一)の電気を帯びており、アンモニア、石灰、苦土、力リなどの陽イオンを吸い付ける性質がある。堆肥の施用により、この陽イオンを吸いつける性質(陽イオン交換容量やCECともいう)が強くなるため、保肥力に富み、雨水による養分の流亡を防ぐことができる。(
図2)

また、作物の生育には好適なpH(ペーハー)がある。pHは、土壌溶液中の水素イオン濃度を示す指標で、土壌の酸性の程度を示している。一般的に作物の生育に好適なpHは、6.0〜7.0の範囲である。しかし、作物によって好適pHや耐酸性は異なるので注意が必要である。主な作物の好適pHを
表1に示す。なお、pHの改善には、力キがら石灰等のアルカリ資材やピートモス等の酸性資材を利用する。
土壌物理性の改善
土壌中に腐植が増加することで土の物理性も改善でぎる。つまり、土の中へ空気や水が入りやすくなり、土は粒状の構造となって軟らかくなる。これを土壌の団粒化といい(
図3)、通気性や透水性、保水性が改善され、根の伸長に適し、好気性微生物が増え、根を取りまく環境が改善される。土壌団粒が形成されると、大雨が降ったときには、雨水が団粒と団粒の間の大きな孔隙を通じて排水されやすくなると同時に、雨が少なく土が乾燥しても毛管力によって団粒の中の小さな孔隙に水が保持されるため、水が失われにくくなる。
土壌生物性の改善
土の物理性や化学性が改善されると、ミミズなどの小動物や細菌などの微生物が生育しやすい環境となり、さらに有機物がこれら生物のえさとなるため、微生物の数が増加する。また、堆肥化された有機物は、その過程で多くの微生物が増殖しているため、有機物を土壌に施用すると微生物の量だけでなく種類も多くなる。このようにして土壌微生物の種類と数が増加すると、有害な植物病原菌の活動が抑えられ、安定した栽培が可能となる。
有機物の施用による微生物の増加及び有害センチュウの防除効果を表2に示した。これは、家畜の生ふんを乾燥して土壌に1.5t/10a相当量を混合し、30日後の微生物数を調査した結果である。牛ふんに比べ養分の多い豚ぷんや鶏ふんでは糸状菌、放線菌、細菌を著しく増加させた。
さらに、無害自活センチュウが増加し、有害なキタネグサレセンチュウを減少させた。この事例は乾燥ふんを利用した試験例であり、これほど著しい変化はないものの、堆肥化した有機物を施用した場合にも同様の効果がある。
土壌診断の手順と土壌の改良目標
農作物を毎年安定的に生産するためには、土壌の状態を十分把握しておくことが大切である。
そこで必要になってくるのが土壌診断である。土壌診断の手順にμ)は、土壌の分類、土壌の断面調査、化学性の分析及び農作物の栽培状況を調査し、その結果をもとに、改善対策を立てていくことである。また、一般的な土壌の改良目標を表3.4.5こ示す。
有機質肥料を厳密に説明すると、動物質肥料(魚かす、骨粉、カニがら等)、植物質肥料(ナタネ油粕、ダイズ油粕、米ヌカ等)、自給有機質肥料(堆肥、緑肥、草木灰等)、有機廃棄物肥料(鶏ふんを乾燥加工したもの等)を総称したもので、有機農業で使用するほとんどの資材がこれに分類される。
高梁地域の有機無農薬農業では、まず堆肥等を使って土づくりを行い、その後、作物の生育に必要な成分を鶏ふんやナタネ油粕等を使って補う方法で行われている。そこで、わかりやすく説明するため、便宜上堆肥等を有機質資材、鶏ふんやナタネ油粕等を有機質肥料の2つに区分して説明する。
成分
堆肥を中心としたいろいろな有機質資材の主要成分名と成分量を表6に示した。これら有機物の使用に当たっては、各資材の含有成分が大きく異なるので、十分注意して使用する。
特性
いろり路名有機物の特性について表7に示した
堆肥化の仕組み
植物や家畜ふん尿に微生物の作用が加わって腐熟することを堆肥化という。堆肥化の重要なポイントは、微生物の活動に好適な生育条件をつくることである。このため、炭素率(C/N比、炭素に対する窒素の割合、
表8)と水分を適正な条件にすることが重要である。堆肥化に最も適した炭素率は30程度で、これより高い素材(オガクズ、バーク、モミガラ等)には窒素源を添加し、これより低い素材(鶏ふん、豚ぷん等)には炭素源を添加してやる。水分は約60〜70%が適当である。
堆肥化の過程は
図5のように、堆積初期の糖分解期(第1段階)、発熱期のセルロース分解期(第2段階)J佳肥の温度が下がったときのリグニン分解期(第3段階)に分けられる。
第1段階では、好気性(生育するのに酸素が必要な)糸状菌や細菌が働きデンプンや糖質の分解を行う。この過程では微生物の呼吸で熱が発生し、堆積物の温度が上昇する。
第2段階では、ヘミセルロース、セルロースの順序で分解し、高温性好気性の放線菌、糸状菌、細菌や嫌気性(生育するのに酸素を必要としない)セルロース分解菌が働ぎ、繊維質の分解がすすみ、炭素率は次第に低下する。この時、植物質の材料では微生物の増殖に伴って窒素が不足するため、窒素を含む家畜ふん尿等を添加すれば分解が早まる。微生物による活発な有機物分解に伴って、分解熱が発生するため、60〜70℃の熱で雑草種子や有害な病原菌も死滅する。
また、切り返しによって、酸素を供給すれば微生物の呼吸が活発になって分解が加速される。一第3段階では、堆積物の温度が下がり担子菌(キノコ類)を中心にリグニンの分解がすすみ、腐植物質へと変化する。また、担子菌以外にも多種類の微生物が発生し、それを食べるトビムシやミミズ等の小動物が現れ、非常に多くの生物が活動する。
堆肥を熟度別に整理したものが
表9、である。堆肥は、完熟まで発酵したものが利用しやすく品質のよい堆肥と考えられるが、使用方法に注意すれば、中熟堆肥の利用効果も高い。
利用目的別の堆肥施用
土壌腐植を期待する場合
土壌の腐植を増大させるためには、リグニン、セルロース、ヘミセルロース等の繊維質を多く含むオガクズ堆肥、落葉堆肥稲ワラ堆肥が適する。これらが土壌の微生物、粘土と複合して土壌腐植を形成する。
物理製の改善を期待する場合
物理性の改善に役立つ有機物は、オガクズ堆肥、山野草堆肥等硬い繊維質の有機物が適する。
養分供給を期待する場合
施用後は大型耕うん機で深く耕起し、その後は、2週間以上の分解期間を,うける。
肥料成分が多い豚ぷんや鶏ふんを利用した堆肥を使用する。これらはリン酸や石灰、カリなどを多く含むため、塩基バランスを崩すことがあるので、施用量は10a当たり2tを限度とする。
施用法
全層施用
堆肥の一般的な施用方法で、ほ場全体に散布しその後よく耕す。施用量が十分あれば、作土層の改良効果が大きく、ほ場全体の改良効果があるが、少量では効果が少ない。また、養分含量が高い堆肥でも濃度障害が比較的おこりにくい。未熟堆肥や緑肥は、好気的条件で速く分解させるため表層施用が適しており、部分施用や深層施用は避ける。
部分施用
作物の根の周囲に施用する方法である。少量の堆肥を有効に活用するための方法である。ほ場全体の改良はできない。施用によって作物の生育部分が改良され、生育に効果がみられるが、そのためには、よく腐熟して養分含量に富むものが必要になる。
マルチ施用
作物を植えた土の上に堆肥をマルチして使う方法である。肥料的な効果より乾燥防止や天敵のすみかを提供して害虫を防ぐ。また、収穫後にすき込めば、全面施用と同じ効果がある。
施用量
これまでの堆肥施用は、量が多ければ多いほど土づくりに効果があると考えられており10a当たり15tや20tが一度に投入される事例もあった。しかし、最近では環境への影響も考えられ、有機物の投入量は多いほどよいのではなく、目的によって適正量を施用する方がよいという考え方にかわってきた。
有機物の適正施用量は、土壌条件や作物によっても異なるが、窒素含有量の少ない有機物であれば、1年間に水田で1t程度、畑で2〜3tであり、物理性の改善が主目的の場合には5t以上必要となる。
またJ也域の有機栽培者の声をまとめると、スタート時には、毎年10t程度の堆肥を2〜5年間連続施用して十分に土づくりを行い、それ以後は、土壌診断の結果や作物の生育を見ながら2〜5tを基準とした施用量へ減らしていく必要がある。
堆肥の簡単な作り方
堆肥の材料には稲わら、麦わら、山野草、畦畔雑草等多くのものがある。これらの材料を有効に活用して、堆肥づくりを行う。ここでは、稲わら堆肥を例に、堆肥の簡単な作り方について説明する。
稲わら堆肥の事例
原材料 ・稲わら1000kg、乾燥鶏ふん200kg、カキがら20kg、水稲わらは積込み前日に水をかけ、軟らかくし、20〜30cmに切断する。堆積時の水分は60%に調整する。
堆積場所及び堆積枠作り
@堆積場所・尿溜めを確保するとともに雨水が流入しないように排水溝を設ける。
A堆積枠・右の図を参照して枠作りを行う。
積込み
一番下に丸太を並べるか、小枝を敷き、堆肥枠を置く。枠の1段分だけ稲わらを積み、軽く踏み固める。周りと四隅はやや強く積み固めるようにする。
1段積む毎に水をかけ、窒素補給資材(鶏ふん)、カキがらを添加する。
積込み→踏固め→水かけ→窒素補給資材添加→カキがら、という順に1段づつ積み上げていく。
添加する窒素補給資材や水は上段をやや多めにする。こうして積み上げたら上面を中高にして古ビニールまたはシートで覆い、雨が入らないようにする。
切返し
積込み後3〜4日で発熱して内部は約60℃になる(どうにか手を入れることがでぎる温度)。発熱しない場合は積み直す(発熱しない原因は水分の過不足または過度の踏み固めが多い)。
逆に温度が上がりすぎる場合は水をかける。発熱後3週間もすると熱が下がるので積みかえ(切返し)を行う。このとき分解の遅れている外側の原料が内側になるようにするとともに、前回の1/5程度の水と1/3程度の窒素補給資材を加える。
こうして3〜4週間堆積すると堆肥ができる。(必要に応じて2回目の切返しを実施する)。できあがりの堆肥は稲わらの場合、重量で原料の約1.5倍、容量で1/3〜1/4程度となる。
稲わら以外の材料の組み合わせ
○山野総理用の堆肥
しば、ささなどの細断したもの1,000kg
鶏ふん100kg
米ぬか15kg
堆肥だね10kg
○湖畔雑草利用の堆肥
畦畔の草、道の法面の草1,000kg
米ぬか15kg
堆肥だね10kg
○椎茸廃木利用の堆肥
シイタケ廃木の砕いたもの1,000kg
米ぬか60kg
尿60kg
堆肥だね10kg
○おがくず、糞尿利用の堆肥
オガクズ1,000kg
鶏ふん(乾燥)300kg
米ぬか30kg
堆肥だね10kg
○牛ふと稲わらん利用の堆肥
牛ふん(生ふん)2,000kg
稲わら700kg
堆肥だね20kg
○牛ふん、オガクズ利用の堆肥
牛ふん(生ふん)2,000kg
オガクズ6,000kg
堆肥だね20kg
○牛ふん、もみがら利用の堆肥
牛ふん(生ふん)2,000kg
モミガラ600kg
堆肥だね20kg
○牛ふん、もみがら利用の堆肥
牛ふん(生ふん)1,000kg
モミガラ1,000kg
堆肥だね20kg
○豚ぷん、もみがら利用の堆肥
豚ぷん(生ふん)1,000kg
モミガラ1,000kg
堆肥だね20kg
品質の判定
よい堆肥を作るためには製品の品質判定が重要になる。腐熟の判定は、炭素率(C/N比)や硝酸態窒素を分析する方法もあるが、急いで判断するためには一般的な方法ではない。
そこで堆肥の状態を現状で評価するもので、堆肥のにおい、色、水分状態、堆積期間等をそれぞれ採点し、その合計点から腐熟度を判定する方法がある。これが堆肥の判定基準である。
堆肥の過剰害
@養分過剰
未発酵の家畜ふん尿、ナタネ油粕等を過剰施用すると、窒素の過剰害が生じ、病害虫の発生が多くなったり、生理障害の発生が多くなる。
また、カリについても過剰害がおこりやすい。カリは、植物体や堆肥中で無機イオンとして存在し、有機態として存在していないため、水分が多いと簡単に溶けだしてくるので注意が必要である。カリの蓄積防止を図るには、カリ含量が相対的に低い堆肥を利用する。
A未熟堆肥の多用による障害
未熟堆肥を多量に施用すると、低分子の糖を利用するピシウム菌が一時的に増殖して作物に被害を与える。また、多量のガスが発生し、生育を阻害することもある。例えば、ナタネ油粕を10a当たり300kg以上施用すれば、栽培条件によっては発芽障害が見られることもある。
B環境汚染
有機物の多量施用は、硝酸等による地下水汚染を引ぎ起こす恐れがある。豚ぷんなど窒素の多い有機物の場合には、10a当たり3t以上施用すると、明らかに浸透水中の硝酸が増加する。
また、汚泥などには多量の重金属が含まれており、土壌に入った重金属のほとんどはそのまま集積するので使用しない。
地方増進作物の利用
地力増進作物の作付により、土壌構造の改善、連作障害の回避、土壌線虫の忌避・減少化、微量要素の有効利用、また、作付け後の微生物活性の強化、根粒菌増加による窒素固定効果がある。
有機質肥料の特徴と使い方
ナタネ油粕、鶏ふん、カニがら等の有機質肥料は、遅効的な肥料が多いものの、必要成分の供給
や土壌の物理性改善などが期待できる。しかし、成分的にアンバランスなものが多いので、それぞれの成分に注意し、組み合わせて使用する。主な有機質肥料の特徴を表14に、成分表を表15に示す。
ぽかし肥料の特性と施用法
ナタネ油粕や米ぬか等の有機質肥料を生のまま多く畑に施用して作物を栽培すると、発芽阻害や定植直後の生育阻害を受けることがある。また、苗を食害するタネバエの発生や野ネズミの被害を受けることもある。発芽阻害や生育阻害の原因は、有機質肥料等が急激に分解が進み、アンモニアが発生するためである。これを回避するため、施用前に前もって発酵させ、障害のおこらないようにすることを「ぼかし」という。「ぼかし」を行うことで、障害の発生がなく、肥料成分の効きが速くなる・また肩効な微生物が増殖し、土壌中の微生物活動も活性化する。
有機物の分解特性
有機物中の三成分(窒素、リン酸、カリ)では、カリだけが無機イオン状態で存在するので、その含有量が表示されていれば、その全てが水に溶けて植物に吸収可能な量となるが、窒素やリン酸は有機態で存在するため、いったん微生物によって無機化(作物に吸収される形態になること)されてからでないと作物に利用されない。微生物によって無機化される量を有効成分量というが、有効成分量は化学分析だけでは簡単にわからないため、有機質肥料や堆肥などの有機質資材に窒素やリン酸の全量は表示されていても、有効成分量は通常表示されていない。しかも、窒素やリン酸の有効成分量は連年施用していると変わってくるうえに、有機物からの養分放出パターンがわかりにくいため、施肥設計を立てにくい。
有機物からのの窒素放出量
有機物には、大きく分けて窒素を放出するものと窒素を取り込むものに分けられる。成分濃度の低い有機質資材を連用した場合、おおむね5、6年までと、それ以降では無機態窒素の放出量が大きく異なることが多い。その代表例は、一葦,葺のように、小麦ワラで、連用して6年目までは無機態窒素の放出量がマイナスであり、7年目からプラスに転じる。同様に、他の有機物についても窒素の放出量についての注意が必要である。完熟堆肥では、5年目に9〜10kgの窒素が放出され、オガクズは反対に、土壌から窒素をとりこんでいる。
有機物からの無機態窒素の放出例を図8、に示す。中熟稲ワラ堆肥を毎年一回、同量ずつ連用したこすると、1年目には13.2%の窒素が無機化され、2年目には1年目に施用した堆肥から7.6%が無樫化し、合計20.8%が無機化する。というように堆肥からの窒素の無機化は続き、数10年継続するこある一定の窒素量になってくる。このことは、有機栽培に切り替えた初年度には肥効が低いため
.ヌ量が少ないが、6、7年経過すると施用有機物から無機態窒素の放出量が多くなり、収量の安定仁が図られてくることがわかる。同様に有機物1tを連用した場合、各年次の1年間に放出される窒素の量をに示す。